話題の書 『大家さんと僕』 やさしさのお手本
かねてより「手塚治虫文化賞短編賞受賞」というビッグな賞をもらったという話は聞いていました。でもどこかで「芸人さんの手すさびだろう」とタカをくくっていました。
興味はあったので、まず図書館で予約を入れたところ、なんと百数十人待ち。賞をもらうということの凄さですね。それでも待つこと数カ月、ようやく借りることができました。そして遅ればせながらも読んでみました。
一読して、これはいい。これはすごい。地味だけど、じわーっと来ます。人間としてのやさしさがあふれているというのでしょうか。強がらない、いいかっこしない、一番大切な本質だけがテーマになっている、そういう漫画です。明らかに昭和の価値観とは違います。強くなければならない、明るくなければならない、おもしろくなければ…、そういうお仕着せの価値観でないものを感じます。恥ずかしくて太宰が好きだなんて言えなかった時代と違います。これも前世紀末から今日にかけて、私たちの社会が様々な試練を乗り越えてきたからかもしれません。ぜひ読んでみて下さい。
図書館の本は返さなければいけないので一冊購入しました。手元に置いておきたくなる本なのです。治療所の待合室に置いておきましょう。ちょうど昨日治療に来られたある青年にお貸ししました。この季節はメンタル的に落ち込んでしまうと言っていたので薬になるかもしれません。
余談になりますが、この絶対的なやさしさという点で、つげ義春の作品と共通しているのです。どちらもそういう「やさしさの芯」がある作品なのでこれからも末長く愛されていくでしょう。日本のみならず、世界中で読まれ続けるでしょう。
昨年この大家さんが他界され、続編が出ないと思うと寂しい限りです。