開院十周年を迎えます

 令和4年6月18日をもちまして、〈北山 石田鍼灸〉は開院十周年を迎えることになりました。これもひとえに地域の方々、そして市外、遠くは府外の皆様のお陰であると感謝申し上げます。

  今後も一層の精進を重ねて参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

庭のジューンベリーにやって来たムクドリ(5月下旬)



石田鍼灸 京都北山 (ishidashinkyu.net)

「富山県立イタイイタイ病資料館」を見学しました

 富山市は別名「薬都」とも呼ばれ、徳川の昔から製薬業で有名な北陸の一都市です。今も多くの製薬会社の工場が操業しています。

 この町で2021年の年末、大阪神戸の鍼灸師・柔整師の親しい友人たちと合宿研修会を行いました。ある漢方薬局様のご厚意で、市内の店舗ビル最上階の研修施設を使わせて頂けることになったからです。

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富山県イタイイタイ病資料館」外観

 友人たちと合流する前の数時間、空き時間ができたので、どこかを散策したいなと考えましたが、年末のこと、ほとんどの観光施設が閉館となっていました。

 その中でほとんど唯一開館していたのがこの「イタイイタイ病資料館」でした。社会科の教科書に書かれていた「四大公害病」の一つとして学習したことはありますが、それ以上の知識はありませんでした。

 そこであらかじめ計画を立て、図書館で関連図書を借りて読んでいきました。なかでもこの八田清信著 『新版 死の川とたたかう』偕成社文庫は入門書として適切で、大変参考になりました。

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 本で予習して行ったことで展示もよりよく理解できましたが、こちらは最新の映像資料が豊富で、書籍だけでは伝わりにくいリアリティがありました。

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映像と音声が理解を助けてくれます

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 展示を見れば見るほど公害病の悲惨さに言葉を失います。本当に深刻な病なのです。鉱山廃液に含まれるカドミウムは骨を溶かしてしまうのです。主に中年以降の女性がその犠牲となりました。想像しただけではその痛みは分かりません。

 病人本人のみならず、一家の主婦という働き手を失い、家庭が崩壊してゆく有様は酷いとしか言いようがありません。心まで病んでしまった家族の人たちが無数にいたのです。「汚染米」という風評被害も農家の人たちを苦しめました。

 戦争で使用する重金属を確保するという大義名分が採掘に拍車をかけ、カドミウムの害を直視することを長年に渡り遠ざけたのです。

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患者さんの分布

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当時の天皇皇后両陛下もご来館(平成27年

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清き流れを取り戻した神通川(新保大橋より下流を望む)

 帰りは歩いて現在の神通川の流れを見に行きました。鉱害が酷かった頃は川の水も白濁していたと言いますが、今は太古の姿を蘇らせて美しく流れています。これは上流の採掘精製工場での放水基準が徹底的に見直されたためです。厳しい基準に照らし、汚水は完全に浄化されてから川に流されているということです。そのための監視の目も常に光っているそうです。

 あらてめて自然を守るということの難しさと大切さを学びました。決して派手な施設ではありませんが、近くへ行かれた方はぜひ一度訪問されることをお勧め致します。

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痛みについて考える~鎮痛剤で痛みをおさえ込むことのメリット・デメリット~

 

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膝関節そのものの障害か、そうでないかを見分けることが大切


 一般の医療機関で痛みを「治療」する場合、鎮痛剤が処方され「様子を見て下さい」となることがよくあります。各種検査・画像診断等の現代医学的診察で重篤な器質的欠陥が見つからない場合です。

 しかし、期待通りに治癒に向かわず、むしろ悪化させてしまうケースもあります。そういったこじれた患者さんが鍼灸を頼りに来院されることが少なくありません。

 先日もある七十代の膝痛でお困りという患者さんがおいでになりました。病院でもらった鎮痛剤で一ヶ月間頑張ったがどうにも良くならない、鍼灸で何とかなりませんか、とのことでした。

 初診時に診せて頂いたところ、右の膝がパンパンに腫れあがって、熱を持っていました。右足は患部だけでなく、つま先まで熱くなっていました。ちょうど家電用品のモーターが熱くなるような感じです。患者さんのお話では、「レントゲン的に膝に損傷が無かったので鎮痛剤の処方となった」ということでした。

 この方は走ることが趣味で、何十年も毎日欠かさず川原を走っておられます。鎮痛剤で痛みを一時的に弱めたことでこの日課をなんとかこなすことができていたのですが、薬物により痛みを弱めることで無理ができてしまった結果、かえって症状を悪化させてしまったと考えられます。

 この方のようにこじれてしまうと、治癒には鍼灸でも最低一ヶ月はかかると予想していましたが、週2~3回の頻度で治療したところ、運よく9回の施術でほぼよくなりました。

 私の診察の結果、膝関節自体の問題ではなく、腰から太ももへかけての神経的な調節不良(坐骨神経・大腿神経)が原因でした。もう少し早く受診されていれば治癒も更に早かっただろうと思われます。

 鎮痛剤だけで治ってゆく場合もあるでしょうが、それは鎮痛薬が治したのではなく、鎮痛剤が効いている間に自然治癒力が病の勢いに勝ったのです。そのことをよく理解していなくてはなりません。特にこの方のように無理しがちな人の場合は病勢に負けてこじれてしまうのです。

 鎮痛剤は一時的に痛みを和らげるのが目的で、本当の治癒に向かわせるのはあくまでも人体の持っている力なのです。鍼灸はそのお手伝いをするのに有効な方法です。

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「群発頭痛」とりわけつらい頭痛と鍼灸治療

 

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つらい頭痛…女性も男性も

 

 イブノーシンセデスバファリン一葉忌     櫂 未知子 

 井上ひさしの戯曲「頭痛肩こり樋口一葉」に、「痛むんです、頭が。割れさうなんです。だれか玄翁(げんのう)でこの頭を断ち割つてください。」と若き文豪が頭痛に苦しむ描写があります。樋口一葉と頭痛とは切っても切れない関係にある中、私の大好きな俳人の手によってこの名句が生まれました。

 樋口一葉が悩まされた頭痛とはまた種類が違うと思うのですが、激しい症状を伴う頭痛の一種に「群発頭痛」と呼ばれるものがあります。20~40歳の男性に多いとされる、通常片側性に発症する頭痛の一種です。これは頭痛というよりもむしろ「激痛発作」と表現してよいほど重篤で深刻な症状を伴う疾患です。数週間から数か月にわたって毎日あるいは数日おきに発作に襲われるのでこの名があります。

 私自身も三十代半ばに経験したので、そのつらさ、深刻さ、恐怖感というものはよく知っています。結婚してしばらくして治りました。比較的長い独身時代に心にからみついた様々なストレスが形となって現われたものだと今では思い返されます。

 今年九月の下旬、まさにその症状を訴える五十代男性が来院されました。八月上旬に突然猛烈な頭痛発作が始まり、以後約40日間、発作の無かった日は一日も無かったとのことです。毎夕あるいは毎深夜にその発作に襲われ、神経内科で処方されている鎮痛薬も効果がないわけではないのですが、根治には至らず、とても困っておられる様子です。病院での画像診断では、脳に器質的な異常は見られない、との結果で、最終手段として鍼灸治療を求めて来られたのでした。

 この方ご自身はご近所にお住まいなのですが、大阪のお知り合いの方(当院の患者さんのお孫さん)に当院を紹介されて来院されたとのことでした。「まさか自分が鍼灸院の世話になるとは思ってもみなかった」ともおっしゃっていました。鍼灸というとお年寄りが行くイメージがあるのでしょうね。

 よくよくお話を伺ってみると、今回処方されている頭痛薬とは別に、以前から精神科で処方されたいた抗うつ剤が今春から別のより強い向精神薬に変更されたとのことでした。(春頃から不眠症が悪化したため)頭痛が発症するまでは飲酒量も多かったようなので、ずいぶんと肝臓に負担をかけていたことは想像に難くありません。

 診察させて頂くと、右の肋骨の上が一見して分かるよど大きく腫れており、押すととても痛がられました。ちょうど肝臓の真上に当たるところです。首肩を診察すると、患側(左)後面の首根っこから「風池」のツボにかけて一本の硬い筋状のしこりができていました。これは胆経の変動であるとともに、帯脈(たいみゃく)の反応です。また、左の下顎の下の「天窓」のツボにも強い反応がありました。とにかくこの頸椎周囲の異常な反応を取っていかねば頭痛も改善しないであろうと判断し施術させて頂きました。

 翌日、第二診で伺ったところ、昨日から今日にかけて頭痛発作はあるにはあったが、ずいぶん弱く済み、全身のしんどさもずいぶん楽になった、とのことでした。痛みの範囲も狭くなり左上歯付近だけになったとのことです。何よりも右肋骨の上の腫れが一夜でかなり減っていたことには私も驚きました。圧迫した痛みも半減以下になっていました。一日間を置いての第三診では更に症状は軽減し、その日はまだ一回も痛みが出ていない、という報告でした。

 その後も順調に頭痛の頻度と程度は軽減してゆき、「最もつらかった時を〈震度7〉とすれば第四診では〈震度2~3〉程度になっている」と表現されていました。初診から2週間後の第六診では、頭痛発作はまったく起きなくなった、との嬉しい報告を頂き、本日(10/25)の第九診まで再発すること無く過ごして頂けているようです。もちろん今では鎮痛剤も服用の必要がありません。

 現在は週一度の来院で様子を診せて頂いています。お仕事が大学の先生なので、当初「対面授業の始まるまでには何とか治したい」という切実な思いで来院されたのですが、幸いにもその願いをかなえることができたようです。私自身もつらい経験があり、他人事ではない恐怖の「群発頭痛」でしたが、こうして無事に危機を乗り越えて頂くことができ、ご縁あって施術した者としてとても嬉しく思っています。

 鍼灸医学は、未だ最先端の科学をもってしても解明され尽くせないほど奥深い「経験医学」です。私はむしろ若い人にも広く知って頂き、体験して頂きたいと思っています。

 この患者様の後日談。以前は「頭痛なので(授業を)休みます」という学生に、「頭痛くらいで休むなよ!」と思っていたが、今は頭痛というもののつらさがよく理解できる、自分も少し優しい人間になったかな?」と笑っておられました。「マイナス体験」は後日必ず何らかの「プラス体験」となるのですね!

〈付記〉最後に、すべての「群発頭痛」が鍼灸で治るとは断言できないことを申して上げておきます。いかなる疾患も、その原因・経過には個人差があるからです。それにより治癒への道のりも自ずと変わってきます。本症例はあくまでも著効例の一つであるとお考え下さい。

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秋晴れの日に~ドラえもんさんの目眩(めまい)~

 しばらく秋晴れが続くという予報なので、門前看板の句に今回はこんな作品を選んでみました。昨秋の「俳都松山 俳句ポスト365」兼題での秀句(夏井いつき先生選)です。

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この「まちこふる」さんも夏井サイトの常連さんです。

 初めて見た時から印象に残っていた句です。これなら通りすがりの人にも楽しんで頂けるかな、と思いました。

 折しも、最近来院されている患者様の中にドラえもんが大好き!な四十代前半の女性がおられ、毎回違うドラえもんTシャツを着て来院され、我々の目を楽しませてくれています。勝手に「ドラえもんの〇〇さん」と呼んでいます。

 この方はメニエール病のような目眩(めまい)ふらつきでお悩みだったのですが、数回の治療で症状も取れ、かなり元気になられ、我々も喜んでいます。お仕事でずいぶん期待され、その期待に応えようと頑張りすぎたのがそもそもの原因だったようです。今はメンテナンスのために数週間に一度来院して頂いています。

 この方の場合、耳鼻科では「特に異常はなく、自律神経的なもの」と診断され、お薬を処方されていたのですが、症状の改善が見られなかったため、今年七月初旬に鍼灸治療を希望されて来院されました。治療の効果が早く現れて本当によかったです。

 鍼灸漢方薬などの東洋医学では、現代医学で言うところの「自律神経的なもの」の中に古来細かい分類があり、研究されてきました。我が鍼灸でもその成果を先人に学び治療に生かしています。

 最高のコンディションで、爽快なドラえもんブルーの一日を!

 

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門前の看板に俳句を載せています

 今春あたりから門前の小看板にお気に入りの俳句を載せています。

 春の頃は、俳人夏井いつきさんより秀句の評価を賜った拙句を掲載していましたが、ちょっとおこがましい気がして夏からは止めています。

 そのかわり、すでに有名な俳人の作品を通りすがりの人に見てもらい知って頂きたく、書き溜めた名句帳から選んで載せています。だいたい二週間ごとに句を変えています。

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秋の季語シリーズ その2「花野」

 さて、今回はこれです。秋の季語「花野」は「俳都松山 俳句ポスト365」のお題として先日出たばかりのもの。自分が投句する際のお勉強として各種歳時記を調べていて出会った鷹羽狩行さんの一句です。

 

新妻の靴ずれ花野来しのみに     鷹羽狩行

 

 ちょっと花野に来ただけなのに靴ずれを作ってしまった妻への愛情があふれるキュンキュンな一句となっております。綺麗なお洋服で訪れた新婚旅行での一コマなのかもしれません。もうすぐ91歳のお誕生日をお迎えになる作者の若き頃の作品と思われます。

 

 これまでに掲載した句を振り返ってみます。

 

(春)

 春暖の妊婦揺蕩ふフラダンス   拙句

 ※揺蕩(たゆた)ふ

 試し書きに薔の字小さく夏近し  拙句

 ※薔(しょく)

(夏)

 青芝に自転車寝かせておく恋よ    正木ゆう子

 梅雨寒し再放送の由美かおる      R U S T Y 

 地下鉄にかすかな峠ありて夏至    正木ゆう子

 はつきりしない人ね茄子投げるわよ  川上弘美 

 指輪棲みついてゐさうな泉かな    櫂 未知子 

 愛されずして沖遠く泳ぐなり     藤田 湘子(しょうし) 

 インターフォン押す前に見る赤い薔薇 纐纈(こうけつ)さつき 

(秋)

 玄関のインターホンから虫の声    北畠明子

 

◇正木ゆう子さん(1952~)は現役の有名な俳人です。素敵な作品の多い方で、すでに二句も選んでしまいました。

◇夏の二句目の作者、R U S T Yさんという方は一般の方ですが、夏井先生のサイトの常連で相当な腕前の人です。この句も取り合わせが最高です!

川上弘美さん(1958~)はご存じ芥川賞作家。爆笑の一句です。

櫂未知子さんはNHKでもおなじみの大先生ですね。中八(五七五の七が八になっている俳句)がお嫌いということをテレビでおっしゃっていたのを聞いて以来、私も中八の句は極力作らないようにしています。

◇藤田 湘子(しょうし)(1926~2005)も有名な俳人で、水原秋桜子のお弟子さんだった方です。昔の人ですが、これも味わい深い失恋の名句です。たまりません。

 

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東尋坊の茂幸雄(しげ ゆきお)さんにお会いして来ましたー水際で自殺を防ぐ人たちー

  7月22~23日の連休、かねてよりご著書やyoutubeを通じて存じ上げていた東尋坊の茂幸雄(しげ ゆきお)さんに会いに行ってきました。特にアポイントは取らずに出かけました。京都から下道で約200kmの道のりを250ccのオフロードバイクで出掛けました。

 

 元警察官の茂さんは、在職中より東尋坊を巡回し、ここを終焉の地として選ぼうとしている人に声掛けをして多くの方の命を水際で救ってこられた方です。2004年3月の定年退職直後の4月、NPO法人を立ち上げた後も、会員や支援者の方々と共に東尋坊の巡回を続け、死の瀬戸際にいる人に声掛けをし、社会福祉に関係する手続き等を含めた人生再出発のための支援活動に尽力されてきました。

 

 「自己責任」という言葉が横行し、「死ぬなら勝手にどうぞ」と言わんばかりの冷淡な風潮さえ見られるこの日本で、このような地道な活動を長年にわたってされてきた茂さんには以前より敬服の情を持っていました。直接お目にかかって、たとえわずかでもお話しすることができれば、きっと目に見えない良い影響を与えてもらえるのではないか、と思ったのです。

 

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元警察官の茂(しげ)さんの本

 ご著書を読むと、思い詰めて自殺を考える人の背景は実に様々です。何が彼らをそこまで追い詰めたのか、その理由は様々で一口には言えません。しかしどんな人にも絶対に自死してはならぬ尊い命がある、という強い信念のもと、茂さんとその仲間の方々は日々奔走されているのです。

 

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 「おろしもち」と大きく書かれた茂さんのお店。東尋坊へ行く土産物店の中の一角にありました。

 

 ご著書にも書かれていますが、2006年に「自殺対策基本法」ができた時に、「自殺は本人だけの問題ではなく」、「社会的に自殺に追い込まれた、社会的責任のある“死”であり」、「自殺は避けられる死である」と結論付けられたのです。こうしてようやく自殺は「個人の問題」から「社会全体の問題」へと位置付けが変わったのです。自殺はある意味で「社会的他殺行為」であり、「追い詰められた要因を取り除く」取り組みが始まったのでした。

 

 茂さんは一警察官として早くからこのような事の本質に気づき、信念と行動力をもって、決して事なかれ主義に流されることなく生きてこられました。

 

 

 私も市井の一治療家として、そのあたたかな心に一寸でも触れてみたいという思いがありました。身体の痛みを訴える方の中にはいろいろな思いを抱えた人がおられるのです。

 

 

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 朝いちばんからお作りになるというお餅はとてもやわらかくて冷たくて美味しかったです。おろし大根ととろろ芋がかけてありました。保護した人をお連れしてまず食べさせてあげるそうです。優しい味がしました。

 

 

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茂さんが「進呈」して下さった今年発刊の小冊子

 

 「茂さんの本を読んで京都から来ました」というと、今年刊行された最新の冊子を一冊私に下さいました。東尋坊が「自殺の名所」として名を馳せることに懸念を抱く地元の人も少なくないでしょう。きっと冊子に書く内容にもずいぶんと気を使われたはずです。

 

 小冊子の前半は東尋坊の魅力について、後半部分に、行き場を失って彷徨って来た人の後ろ姿の写真が多数掲載されています。後ろ姿のためお顔はわかりませんが、皆一様に寂しいオーラをまとっています。「そういう人は一目でわかる」と茂さんは言われます。

 

 「そういう人」が多いのは春から秋にかけてで、冬はまずいない、のだそうです。冬の日本海の荒波は自殺志願者さえも震え上がらせるのでしょうか。「こんな暑い真夏でもおられるのですか」と尋ねると、「今日は連休でたくさんの観光客がいてにぎやかだけど、ふだんはひっそりとしたもの。そういう人は真夏でも来られる」とのことでした。

 

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断崖の上の公衆電話ボックス

 

 東尋坊の断崖へ足を運んでみると、夏草の生い茂る中に近頃あまり見かけなくなった公衆電話ボックスがありました。中には思いつめた人へのメッセージや、新聞記事、そして無一文の人でもSOSの電話を掛けられるようにと、10円硬貨がたくさん置かれていました。これらは茂さんとはまた別の「月光仮面」と称される本名を明かされない方からの善意なのです。茂さんは元警察官ですが、「月光仮面」さんは一般のビジネスマンだった方のようで、こちらも退職後にこのような活動に心血を注いでおられるそうです。

 

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電話ボックスの中にはメッセージと新聞記事が

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月光仮面」という名の有志の方による通話用の10円硬貨

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東尋坊の断崖の小径

 

 

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 足がすくむ高さです。このようなところから飛び降りようとは普通の精神状態なら恐ろしくて考えることもできないことです。追い詰められた人はその正常な恐怖心さえももはや失ってしまっているのです。しかし、最後の最後の生きる望みは失っていないのです。だからこそ、茂さんや月光仮面さんらの言葉が心に響くのです。本当に死にたい人なんかいないということがわかります。皆引き留めてもらうのを待っているのです。どこまでも生きようとするのが人の本能なのです。

 

 福井から帰り、今あらためて茂さんの本を読み返しています。私自身はこの取り組みにまだ何も参与していませんが、茂さんやそのお仲間、月光仮面さんのお心の在り方には言葉では表現できない影響を受けています。

 

 帰り際には茂さんに握手をしてもらいました。そのせいかどうかは分かりませんが、帰って来てから患者さんに鍼をした時の「気の至り」(鍼治療が効いている時に治療者の手に伝わってくるごく微小な振動のような感覚)が鋭くなっているようにも思えます。たとえそれがまさに「気のせい」であったとしても嬉しい気持ちがします。

 

(茂さんのお写真も一枚撮らせて頂きましたが、ブログへの掲載承諾をもらうのを忘れて帰って来たので今は掲載いたしません。)

 

石田鍼灸 京都北山 (ishidashinkyu.net)