「群発頭痛」とりわけつらい頭痛と鍼灸治療

 

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つらい頭痛…女性も男性も

 

 イブノーシンセデスバファリン一葉忌     櫂 未知子 

 井上ひさしの戯曲「頭痛肩こり樋口一葉」に、「痛むんです、頭が。割れさうなんです。だれか玄翁(げんのう)でこの頭を断ち割つてください。」と若き文豪が頭痛に苦しむ描写があります。樋口一葉と頭痛とは切っても切れない関係にある中、私の大好きな俳人の手によってこの名句が生まれました。

 樋口一葉が悩まされた頭痛とはまた種類が違うと思うのですが、激しい症状を伴う頭痛の一種に「群発頭痛」と呼ばれるものがあります。20~40歳の男性に多いとされる、通常片側性に発症する頭痛の一種です。これは頭痛というよりもむしろ「激痛発作」と表現してよいほど重篤で深刻な症状を伴う疾患です。数週間から数か月にわたって毎日あるいは数日おきに発作に襲われるのでこの名があります。

 私自身も三十代半ばに経験したので、そのつらさ、深刻さ、恐怖感というものはよく知っています。結婚してしばらくして治りました。比較的長い独身時代に心にからみついた様々なストレスが形となって現われたものだと今では思い返されます。

 今年九月の下旬、まさにその症状を訴える五十代男性が来院されました。八月上旬に突然猛烈な頭痛発作が始まり、以後約40日間、発作の無かった日は一日も無かったとのことです。毎夕あるいは毎深夜にその発作に襲われ、神経内科で処方されている鎮痛薬も効果がないわけではないのですが、根治には至らず、とても困っておられる様子です。病院での画像診断では、脳に器質的な異常は見られない、との結果で、最終手段として鍼灸治療を求めて来られたのでした。

 この方ご自身はご近所にお住まいなのですが、大阪のお知り合いの方(当院の患者さんのお孫さん)に当院を紹介されて来院されたとのことでした。「まさか自分が鍼灸院の世話になるとは思ってもみなかった」ともおっしゃっていました。鍼灸というとお年寄りが行くイメージがあるのでしょうね。

 よくよくお話を伺ってみると、今回処方されている頭痛薬とは別に、以前から精神科で処方されたいた抗うつ剤が今春から別のより強い向精神薬に変更されたとのことでした。(春頃から不眠症が悪化したため)頭痛が発症するまでは飲酒量も多かったようなので、ずいぶんと肝臓に負担をかけていたことは想像に難くありません。

 診察させて頂くと、右の肋骨の上が一見して分かるよど大きく腫れており、押すととても痛がられました。ちょうど肝臓の真上に当たるところです。首肩を診察すると、患側(左)後面の首根っこから「風池」のツボにかけて一本の硬い筋状のしこりができていました。これは胆経の変動であるとともに、帯脈(たいみゃく)の反応です。また、左の下顎の下の「天窓」のツボにも強い反応がありました。とにかくこの頸椎周囲の異常な反応を取っていかねば頭痛も改善しないであろうと判断し施術させて頂きました。

 翌日、第二診で伺ったところ、昨日から今日にかけて頭痛発作はあるにはあったが、ずいぶん弱く済み、全身のしんどさもずいぶん楽になった、とのことでした。痛みの範囲も狭くなり左上歯付近だけになったとのことです。何よりも右肋骨の上の腫れが一夜でかなり減っていたことには私も驚きました。圧迫した痛みも半減以下になっていました。一日間を置いての第三診では更に症状は軽減し、その日はまだ一回も痛みが出ていない、という報告でした。

 その後も順調に頭痛の頻度と程度は軽減してゆき、「最もつらかった時を〈震度7〉とすれば第四診では〈震度2~3〉程度になっている」と表現されていました。初診から2週間後の第六診では、頭痛発作はまったく起きなくなった、との嬉しい報告を頂き、本日(10/25)の第九診まで再発すること無く過ごして頂けているようです。もちろん今では鎮痛剤も服用の必要がありません。

 現在は週一度の来院で様子を診せて頂いています。お仕事が大学の先生なので、当初「対面授業の始まるまでには何とか治したい」という切実な思いで来院されたのですが、幸いにもその願いをかなえることができたようです。私自身もつらい経験があり、他人事ではない恐怖の「群発頭痛」でしたが、こうして無事に危機を乗り越えて頂くことができ、ご縁あって施術した者としてとても嬉しく思っています。

 鍼灸医学は、未だ最先端の科学をもってしても解明され尽くせないほど奥深い「経験医学」です。私はむしろ若い人にも広く知って頂き、体験して頂きたいと思っています。

 この患者様の後日談。以前は「頭痛なので(授業を)休みます」という学生に、「頭痛くらいで休むなよ!」と思っていたが、今は頭痛というもののつらさがよく理解できる、自分も少し優しい人間になったかな?」と笑っておられました。「マイナス体験」は後日必ず何らかの「プラス体験」となるのですね!

〈付記〉最後に、すべての「群発頭痛」が鍼灸で治るとは断言できないことを申して上げておきます。いかなる疾患も、その原因・経過には個人差があるからです。それにより治癒への道のりも自ずと変わってきます。本症例はあくまでも著効例の一つであるとお考え下さい。

石田鍼灸 京都北山 (ishidashinkyu.net)