中医師・卲輝先生の「不妊症の鍼灸治療」講義~我々鍼灸師がお役に立てること~

5月19日(土)夕方六時から、大阪市立総合生涯学習センターにて中国人医師・卲輝(しょうき)先生による「不妊症の鍼灸治療」講座へ出席して貴重なお話しを伺って参りました。

 

卲輝先生の勉強会に最初に出席させて頂いたのは、今からかれこれ18年も前になりますが、今も当時とほとんどお変わりなく精力的に活動されており、実際に御歳よりもずっとお若く見えます。

 

私自身は思うところがあり、途中から中国医学に則った鍼灸中医鍼灸)をやや離れて、日本由来の「経絡治療」という流派の方法を治療の中心に据えてやっていますが、今もなお、この先生のお話があると聞くと出かけていきます。温和でお話しが上手で、西東両医学に渡る治療上の知識も経験もとても豊富な敬愛すべき先生です。

 

まず概論として、不妊治療専門のクリニックは日本全国で約600軒もあること、ハーバード大学でも東洋医学的体質改善による不妊治療を認めていること、不妊治療は中医学鍼灸の一つの大きな柱であること、などからお話は始まりました。

 

そして、我々鍼灸師不妊症で女性の患者さんを扱う場合に、最も注意すべきことの一つとして、卵管の閉塞がないことが大前提である、というお話もされました。卵管が詰まっていると、いくら鍼灸で身体のコンディションを整えても、卵子精子が出会うことができないからです。必ず先に検査をして、卵管の閉塞がないことを確認してから、鍼灸に取りかかるべきなのです。この点をあいまいにして治療に取りかかると、後から訴訟問題になることもあり得ます。懸命な思いで不妊治療に取り組んでおられる方の大切な時間を徒に奪う結果にもなりかねません。

 

その他、以下の様なお話をされました。

鍼灸治療は、身体のコンディションを整え、妊娠しやすい状態に持っていくにはとても有効な方法です。このことは女性のみならず、男性のEDにも有効です。

〇女性の不妊の最大の原因は、日本人の場合、身体の冷えであり、内部の子宮・卵巣周りも冷えています。お灸でお腹を温めると、卵管がより通りやすくなります。

〇子宮・卵巣周囲の内蔵脂肪(中医学で「痰湿」という)が増えると、妊娠にも支障をきたすので注意が必要です。

〇元気な精子を育てるために、男性はまず、禁煙、ビタミンC・Eの内服、そして下着は風通しのよく睾丸の温度を上げすぎないトランクスを着用するのがよいです。

 

実際の治療方法として(専門的な話になりますが)

〇温灸器で耳を温めたり、鍼治療を行うこと。不妊治療に耳というと驚く方が多いと思いますが、東洋医学では耳は腎臓・副腎など生殖器官に密接な場所に直接つながると説いています。この耳へ直接治療することで、生殖器官の状態も整うのです。

〇「妊娠三穴」三穴とは「三つのツボ」という意味です。不妊治療に欠かせない三つのツボというのは、卲輝先生によると、神闕(しんけつ)、気海(きかい)、気衝(きしょう)を指します。神闕というツボは、おへそそのものです。また気海は下腹部丹田のあたり、気衝はそのもう少し下の脚の付け根(鼠径部)の内側にあります。これらを温灸で温めますが、熱すぎても卵子を傷つけるので加減が大切になります。

〇八髎(はちりょう)これはお尻の中央の仙骨部に集まっているツボのことです。その中でも特に「上髎」への鍼灸を奨励されました。このように後側から骨盤内を温めることも子宮・卵巣の冷え対策には欠かせません。身体の緊張を緩め、皮膚温度を上げ、排卵数も増加するということです。

〇督脈(とくみゃく)これは背骨に沿ったラインに首筋から仙骨に至るまで縦に並んでいるツボです。その中でも特に「至陽」「命門」といったツボが重要になります。

〇背部兪穴(はいぶゆけつ)背中前面に五臓ごとに整然と並んでいるツボです。特に「心兪」「肝兪」「膈兪」「腎兪」などが硬くなっていることが多く、ここへ鍼灸治療を行います。

〇舌の状態をよく確認する。中央に縦の割れ目が入っている場合、胃の不調と共に、心腎の不調(心血と腎陰)、痰湿の停滞と冷えの存在を疑い、治療方針の参考にする。

〇唇の黒さで瘀血(おけつ=巡りの悪い血液)の存在が分かった場合、体力の不足している患者さんの場合は、いきなり肝経を使わず、脾経を補ったり、胃経を瀉したりして対応する。

補腎と降気(緊張して頭へ昇っている気を下へ下ろす)・つまり、リラックス効果の両方に効果のあるツボとして、足底の湧泉(ゆうせん)を温める。

 

当日のお話の最後に先生は

「世界中に不妊でお困りの人たちがたくさんおられます。我々鍼灸師はそういう方々ののためにできることがたくさんあります。頑張って一生懸命治療して上げて下さい。きっと喜んでもらえるでしょう。」とおっしゃいました。

現代医学の不妊治療と併用する場合でも、その効果を上げるためには、母体の状態が良くなければなりません。ちょうど畑を耕して、水や肥料、日光を受け止める素地を作ろうとするようなことだと思います。