ジャズピアノ、ラテン音楽、ベース、治療家としての自覚、そして原点回帰

年末からご無沙汰しているH先生のジャズピアノのワークショップ(つまり教室)にそろそろ復帰させていただこうかと思っています。この冬はピアノに向かう心の余裕がなく、気付いたら三カ月以上お休みしてしまっていました。

  

ジャズは15~6歳の時に周囲の友達の影響はほとんど受けず、協調性と無関係な環境下でガラパゴス的に目覚めました。きっかけは当時流行していたレンタルレコードとFMラジオのエアチェック(録音)。レンタルレコードは、どんなジャンルのレコードでも一枚数百円で借りることができたのです。まだCDのない時代ですから、基本はLPレコードでした。

 

こづかいのほとんどをつぎこんで借りに借りて、日々聴きに聴きました。何よりも音に飢えていたのです。十代の柔軟な心にはどんなジャンルの音楽も分け隔てなくどんどん沁み透っていきました。古今のイギリスやアメリカのロックも、フュージョン、ラテンも、古典落語まで、目につくもの耳につくものはなんでも聴いてみました。

 

ジャズではありませんが、当時はStevie Wonderを誰よりも尊敬していました。ピアニストはアルゼンチン出身のJorge Daltoが当時のお気に入り。ラテン(正確にはプエルトリコキューバのsalsa)には後年どんどんハマっていくことになるのです。現在までで最も好きなピアニストはプエルトリコのPapo Lucca(パポ・ルーカ)。ダントツです。まさにマエストロです。

 

大学時代は音楽サークルでこのラテンのピアノを弾いていました。サルサのモントゥーノというコール&レスポンスが延々と続くパートで好んで弾かれる「トゥンバオ」ばかり弾いて喜んでいました。3オクターブのユニゾンの中にコードを入れるシンコペーションを主体にした打楽器的ピアノ奏法です。

 

この頃にもジャズには未練があり、習得したいと思っていたので、豊島区の小さなジャズスクールに通ってみたりしたのですが、理論とハノンばかりやらせるので、じきに嫌になりやめてしまいました。この時、ジャズのピアノは将来の課題にしてしまったのですが、ようやく今頃になってそのやり残した課題に手を付けているという有り様なのです。

 

その後、ある一定の期間、ベースを練習していました。これもちゃんと師匠について習っていました。大阪在住のプエルトリコ系ニューヨーカーで6弦ベースの名手。もちろんアップライトベースも上手い。スタンダードナンバーのコード進行はほとんど頭に入っている。いわゆるヒスパニック系ラテンジャズ本家本元の大先生。実力と愛嬌で世界を渡り歩いている人でした。(それだけあれば世渡りには十分なのですが。)ただ、スラングと下町訛りの強烈な英語は聴きとることが至難の業でした。(初回のレッスン時に"Could you speak English more slowly?"とお願いしてみましたが完全に無視されました。)

 

とにかく長年の夢でどうしてもラテンのベースを本来のパーカッシヴな図太い音で弾きたかったので、探しに探して中古のぶっ壊れたAmpeg社Babybass(1960年代製)を入手しました。大阪心斎橋の楽器店で買い付け、その足で、名古屋の専門店に持ち込んで修理してもらいました。レッスンはまじめに通いました。

 f:id:tacoharumaki:20160413001415j:plain

 

しかし、ある時おばあさんの患者さんに言われました。

 

「センセイ、近頃指がかたくならはったね」

 

どきっとしました。私がその人の背中を触診するその指の感じが以前とは違うという指摘だったのです。

 

言うまでも無く、というか、知らない人も多いと思うので書いておきますと、鍼灸治療は指先の感覚が命です。「指先に目が付いている」くらいでないと、体表の変化は読み取れないのです。それが診断になり、治療につながっていきます。20年、30年、あるいはそれ以上の長年をかけてその感覚を磨くのです。身体を診る職人中の職人なのです。画像診断に頼る西洋医学とはモノが違うのです。単純に比較して優劣は語れないのです。

 

鍼灸師として指先を大切にるすことは当たり前のことなのですが、その頃の数年間は己の願望の方を優先させ習いたいことを習いました。ベースをやったことは後悔はしていません。でも今はさすがに弦楽器は止めています。職業人としての自覚が年齢を重ねるにつれ高まってきたのだと自己分析しています。「○○にして天命を知る」に至ったということでしょうか。

 

しかしどうしてもジャズやラテン音楽からは生涯離れることはできないと自分で分かっていますので、原点に戻りH先生のお世話になっているというわけなのです。(ピアノなら絶対に指先を痛めないとは言いきれないのですが…。)H先生またどうぞよろしくお願いします。